アクィーラの草迷宮
宗教学徒アクィーラ氏
 
第二回 『死シテ屍ヒロウモノ無シ』
 
皆さんこんばんは。
ここ秋谷の太陽は、
夕方になると富士山と江ノ島を右に見ながら、
相模湾の海の底へと潜っていきます。
昼間には熱を帯びて薄黄色の光を発していたのが、
海の水に冷やされて、
ジュジューッという音も立てずに、
徐々に赤い光に変わります。
それにつれて、
今しがたまで猫のように日向ぼっこして、
充分温まっていた空気たちも、
急に寒がりはじめます。
どうもこのところ、
ブルブルブルという、
その空気たちの振動数が増しているようで、
ボクの背骨も共鳴をはじめました。
昨日うちでは、
円いストーブを買いました。
それは青い光を発します。

今回の草迷宮では、
ボクが修士論文で取り上げた、
コレラにまつわるエトセトラ
ご開帳させていただきます。

江戸の末から明治にかけて、
未知の病が大流行。
その名はコレラ、
アジアンコレラ。

その症状は激烈で、
下痢に、嘔吐に、皮膚硬直。痙攣、激痛、悲鳴付き。
頭痛、耳鳴り、めまいに難聴。興奮状態、錯乱状態。
顔は黒、皮膚は赤、唇は紫。目は陥没、獰猛な形相。
手足収縮、舌鉛色。
脈拍停止。

元来インドの風土病。
旅は道連れ世は情け、
人の移動で世界中、
コレラが広がり大混乱。

日本にも伝わりさあ大変。みんな知らんぞこんな病。
対馬じゃ「見急」、豊後じゃ「鉄砲」、大阪じゃ「三日コロリ」と呼んだそな。
みんなコロリと死んでゆく。
町中死体がゴロゴロと、
死シテ屍ヒロウ者無シ。
みんなコレラを怖がって、
死シテ屍ヒロウ者無シ。

そこでしめ縄、門松立てて流行正月してみたり、
豆まきなんぞしてみたり、
「災いはすぎたと」杉の葉を
飾る者などいたという。

いやいや疫病神の仕業だと
人形作って念仏唱え川へ流す者もいた。

なんの亜米利加・おろしあなどが
狐を放して人に憑き、
人民どもを殺すという。

時代は明治に変わっても、
いろんなことが云われてた。
「巡査が毒を井戸へ入れる、外国人が狐をつけてコレラにする」
当時は巡査が衛生指導、ちょっと威張って嫌われて、
こんな風にも唄われた。
「いやだいやだよ巡査はいやだ 巡査はコレラの先走りチョイトチョイト」
招き手しながら子供らが
歌って列で練り歩く。

それぞれこんなこと言いながら、
病と闘っておりました。
滑稽なように見えますか?
これが現実リアリティ。
ボクらもこんなイメージに
包まれながら生きている。
いろんな噂が飛び交って、
いろんな考えも刷り込まれ、
何が何だかわかりゃしない。
どれがホントでどれがウソ、
どれを信じていいのやら。
我が目を疑う、仮想=現実。
嗅覚を研ぎ澄ませ!
もはや理性も怪しくなって、
だから嗅覚研ぎ澄ませ!!

次回は明治の巡査のひとり、
増田敬太郎氏のご登場。
次回「生キテ屍拾ウ者アリ」
増田巡査のご活躍乞うご期待。
いやだいやだの巡査のはずが、
なんと神様になっちゃった。
その名も「巡査大明神」!
どうして彼が神様に
なってしまうんでしょうかしら。

合掌

 
*アクィーラの草迷宮トップ
*contents