1992年〜1993年という時期は、僕にとってかなり危機的、今思い返すとガッチャーンとそれまでの線路をはずれ新しい線路を敷き始めた大きな転換の時期だったようです。ずっとのめりこんでいたコンピューター・アートに疑問を持ち始め、改めて「絵」を描こうとするも、その「絵」が全く描けなく成っていていたのです。なんとか自分の「絵」を立て直さなくてはと思った僕は、10年間暮らした東京から、故郷の神戸へ生活と制作の場を移しました。 町田さんと出遭ったのはそんな僕にとって大変な時期でした。ひょんなことで再会したリトル・モアの孫家邦さんから町田さんの著書「壊色(えじき)」の装丁を持ちかけられたのです。町田さんは僕と全く同世代で、既に10代の頃からパンク歌手として関西では名前が轟いていたので、関西圏で育った僕もその存在は耳にしていたのですが、それまでは縁がなく彼の世界を知りませんでした。 さっそく送られてきた原稿を読み、同封されていたCD「腹ふり」を聴き、僕は余りの良さに驚愕してしまいました。凄い!こんな凄い人が身近にいながら知らないで過ごしてきたとは・・・僕は「絵」が描けなくなっていることも忘れ、「壊色」の本作りに没頭しました。「色が壊れて、えじき」・・・なんていかしたタイトルなんだろう。僕は、もう一度コンピューターの前に着き、また当時始めたデッサン、子供の頃から持っていた海藻の標本、などなどその時繰り出せる全ての技を投入して「壊色」の世界に立ち向かいました。そうして完成した本「壊色」は、僕が今までに関わった本の中でも、僕としては一番ソウルの入りこんだ装丁になったと自負しています。 と、同時に、僕は僕自身、いろんな意味でふっきれた、という気がしました。僕は、町田さんにはずかしくないよう、自分の「絵」をおっ立てて生きていこう、と思ったのです。本が完成して、当時、下北沢にあったリトル・モアの一室で、僕は初めて町田さんに会いました。それから近所のお好み焼き屋さんで軽くビールで乾杯しながらお互いの仕事を称えあいながら、僕はココロの中でそう強く思ったのです。 以降、僕は町田さんのライブコンサートがあると出かけ、ココロが弱るとCDを大音量でかけ町田さんの絶唱に勇気を奮い起こしてもらいました。たまに東京へ出かけた折にはご飯を食べたり、お酒を飲んだり。 1994年、僕の初めての作品集「かごめドリーム」の出版を記念した展覧会のレセプションパーティでは、町田さんに詩を朗読してもらいました。そのラストに「壊色」の中の「こぶうどん」を読んでくれたのですが、「食券買え!」と怒鳴る町田さんの殺気を、その時会場にいて体験した人は一生忘れないんぢゃないかな。 1996年、町田さんは小説を発表しはじめ、以来、新しい本が出る度に、表紙に僕の絵をフィーチャーしてくれているのですが、実を言えば、僕は依頼を受ける前から、文芸誌に新作を見付けるやいなや、あれこれと「絵」を思い浮かべ、いや、自ずと「絵」が浮かび、描いてしまうこともあります。町田さんが立ち上げる世界には、僕の深ーいところをゆさぶってくれる、ココロアタリが毎回必ずあって、僕の絵ゴコロを刺激して止まないのです。そしてそれはいつも、僕の描きなれた世界から一歩、未だ描いたことのない世界、でも描けるはずの世界、描くべきはずの世界へと導いてくれているような気がしてなりません。願わくば、(町田さんの歌の歌詞にあるとおり)「あなたといけるところまで」!(今も僕は町田さんの新作と格闘中。お楽しみに!) |
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●町田さんの小説第2弾「河原のアパラ」にインスピレーションを得て描いた絵(1996) |
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●町田さんのファンクラブのための |
●町田さんのファンクラブのための |
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●「壊色」出版記念ポスター(オフセット+シルクスクリーン)(1993) |
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●「壊色」(初版)リトル・モア(1993) 定価1600円 装丁も |
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●「壊色」(新装版)リトル・モア(1997)定価本体1553円+税 装丁も |
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●「壊色」(文庫版)ハルキ文庫(1998)定価本体580円+税 装丁/芦澤泰偉 |
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●「くっすん大黒」文藝春秋(1997)定価本体1429円+税 装丁/関口聖司 |
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●「屈辱ポンチ」文藝春秋(1998)定価本体1143円+税 装丁/関口聖司 |
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●「へらへらぼっちゃん」講談社(1998)定価本体1600円+税 装丁/緒方修一 |
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●「つるつるの壷」講談社(1999)定価本体1400円+税 装丁/緒方修一 |
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●「耳そぎ饅頭」マガジンハウス(2000)定価本体1500円+税 装丁/緒方修一 |
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祝 芥川賞受賞! ●「きれぎれ」文藝春秋(2000)定価本体1143円+税 装丁/関口聖司 |
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