▼ pick upper 満月 道成寺 月食 ▼
といわけで昨晩は東京へ帰りそびれて、今朝6時台ののぞみで移動。品川駅から一駅京浜東北線に乗るのだが、そのホームで電車を待っていると、目の前をサラリーマン風の僕よりは少し若い男性が全力疾走で通過、その首からマフラーがながながとたなびいていたが、ふわっと僕の方へ滑り落ちてきた。男性は向かい側のホームに停車中の電車に乗りたくて走っている様子だから、呼び止めると乗り遅れるかもと瞬間的に判断し、僕はマフラーを拾って後を追いかけて、彼が電車に飛び込んで振り返るやいなや閉まるドアの隙間からすばやくマフラーを手渡すことに成功。そのマフラーの手触りは良質な純毛で淡いグレーのツートーン千鳥格子模様で品が良い。おそらく感じの良い妻と一緒に先週老舗の百貨店に赴き逐一相談などして手に入れた一品だろう。僕のおかげで誠実な妻をがっかりさせなくて済んだ、よかったよかった、と思いつつ、私鉄電車に乗り換えようと改札をくぐり、ホームへ歩いていく途中目の前を歩むスポーツ着に身を包んだ若い男性のポケットからぽろっと僕の目の前に手袋の片方が転げ落ちてきた。これも拾ってとことこ追いかけて手渡すと、特に驚いた風も無く満面の笑顔で「ありがとございます」と言われた。いい笑顔だな、と思ったりしつつ電車を待ち、この駅から折り返し始発なのでからっぽの車両のドア脇の座席に着いてすぐ、ドアをはさんで向う側の座席に、大きな荷物をかついだりかかえたりした女の子が着席した途端、びょんっと何かが飛んで僕の目をかすめた。あれっと思って床を見やったが何も無い。もしやと思って立ち上がり、ドアの向こうを見るとホームと車両に挟まれるようにして、どこかの国でかわいそうな獣から剥がれた廉価ファーのついた耳あてが落ちていたのでこれを拾い、気づいてもいない女の子に手渡すと、これまたさして驚く様子も無く「ありがとございます!」と笑顔で返された。キャッチアンドリリース、ならぬドロップアンドピカップのプレイでも流行っているのかな?
得た教訓は、二度あることは三度あるだ。
帰宅。
夕刻、僕がかつて思い切り関っていた劇団山の手事情社の看板の山本芳郎君が招いてくれていたので、同劇団の公演『道成寺』を観に浅草へ。浅草駅地下街でラーメンを急いで吸って、金の魂の乗ったビルへ。
(写真は自由が丘駅ホームから、食に入る前の満月。肉眼では、白い象の目に満月がなっていたのだが。)
山の手事情社は海外での評価もうなぎのぼりで、『道成寺』はその代表作だが、僕は今日初見。はっとする刹那もあった。評判どおりの見応えのある綺麗な舞台だった。よく整理されまとまっている。ヌーベルキュージーヌという語が浮かんだ。初期メンバーの異形には目を見張らされる。長く彼等をそのスタートから知る者としては、傍らの炬燵でのお戯れシーンに安堵を感じたりもする。山本君、久し振りの大久保美智子さんに挨拶し退出。
劇場を出ると隅田川、橋から劇場の金色の魂を振り返ると天に、月は食され始めてていた。
(写真は隅田川の上の月食)
帰宅。
画室の屋上へ上がると、真上の空で月は赤い影と細い輪郭の光の滲みになっていた。オゴンバイラ君からのメール。
「先生、月食みてますか?只今全色になってますよ、一番上のとこに」