▼ 点と線 ▼
14日の西神戸はすばらしく気持ちのよい快晴で、新神戸では緑が目立ち始めた桜も、大学ではまだまだ清楚さが残る。この日僕が担当する実習でのテーマは「点と線」。子供の頃、生命の証しの如くこの世に刻み付けていたようなヴィヴィッドな「点」や「線」を僕達はもう得ることができないのだろうか?ノートに文字を書くみたいな手馴れた手癖を投げ捨てて、これまでに試したことの無いどんなやり方でもいいから、これから4時間、生きた点と線だけを刻みつづけよう!なんて煽ってみたが、学生諸君、果たしてわかってくれたかな?と案ずる間もなく、次々と各自、先週数時間に渡り下地材を塗って形成したそれぞれの支持体にと向かって行った。
イナバウアー状態で反り返りながらキャンバスに突進するもの、すぐさま靴・靴下を脱いで足で線を描き出すもの、天井からペンを吊るして振動させながら画面を押し付けているもの、靴にペンを差し込んで画面を蹴りつけているもの、肘にペンをくっつけて這いずりながら描くもの、額に短い鉛筆を固定して頭突きするもの、ブリッジして反り返り着地の瞬間にペンを画面に突き立てるもの・・・あっという間にスタジオは異様な熱気が充満し、室内ではおさまり切らなくなった女子達は外へ出て、支持体を投げ上げてジャンプしながら描く、支持体を頭上で回転させながら描く、剣豪の果し合いのように全速で駆け抜けながら擦れ違いざまにキャンバスにペンを擦り去る、延々とダンスをしながらターンの度に線を叩きつける・・・・などなど、そこかしこで得体の知れないライブパフォーマンスが次々と繰り広げられた。清掃担当のおじさんが神妙な顔をして僕のところへやってきて、「いったいこれは何の勉強をさせているんですか?」「生きた点と線を描く工夫です」 おおいに暴れた学生達はまるで何かのハードな試合の後のように肩で息をして、全身上気させ、眼に野生が灯っていた。そうして各自のなまっ白かった支持体も日が暮れる頃には事件の痕跡のような生々しい点と線で埋め尽くされ、傷だらけで輝いていた。
イナバウアでキャンバスに突進する、足の指にペンを挟んで描く。靴にペンを固定しキック。
くわえて描く。きりもみ式で点を掘る?
肘で。額で。
天井からペンを吊るして。
ベルトでペンをぶらさげて。ブリッジで。
ジャンプ。ダンス。頭上回転。
駆け抜ける、切りつける?
外で、足で。
窓の向こうで淡々と点々。
点。線。
点と線たち。
そして日暮れ。
空では飛行機が線を刻んでる。