▼ 結城座 古典公演 ▼
5月29日、雨。池袋の東京藝術劇場小ホール、結城座公演を観せていただく。
昨秋、結城座の新作公演「森の中の海」で人形のデザインを担当させていただいた。台本の遅れ等色色と大変なことがあり、仕込み直前に結城座稽古場に泊り人形を作り込み、小屋入りしてからも初日直前まで顔を描き替えたり…日程的には相当にハードな情況だったが、僕としては非日常感が愉しくもあり、他にもいくつも激しい現場を抱えてもいたのでランナーズハイになってもいたのか、愉快な気持ちで結城座現場に臨んでいた。本番初日の舞台は奇跡のように夢めいていて、結城座はじめ関る全ての方々の心意気、芝居魂に酔ったものだったが、その前日(あのゲネの日だ…)に結城座の御母様=竹本素京氏がお亡くなりになっていたことを知ったのは今年に入ってからだった。
「いやぁ、僕等はそう言われてずっとそうやって育ってきてますからねぇ」
「水臭いって叱られちゃうんだけど」
終演後、不知とはいえ余りに暢気に構えていた失礼を詫びに楽屋を訪ねると、孫三郎さん、千恵さんは朗らかにそう言われた。
今回の公演は「竹本素京追悼」公演で、古典演目二本立てを竹本素京氏生前の録音を使っての上演。舞台上手にはあたかも素京氏が入って来るかのように演台がしつらえられ、舞台が始まるとすっとそこに簾が降りて、三味線と声が中から響いてくる、という趣向。とても録音との競演とは思えない、演者達との声の生々しい重なり。
第一部の演目「本朝廿四孝 奥庭狐火の段」では孫三郎氏が出ずっぱりで八重垣姫を操り語る。母-子の時空を超えた競演。
第二部の演目「新版歌祭文 野崎村の段」は前半、人形遣いは見えず、完全に人形芝居となる。実は結城座で人形だけが見える芝居を観るのが僕は初めてで、とても新鮮! 後半は人形遣いもずらりと舞台へ登場。結城座人形遣いたちの揃い踏みが壮観! 最後の別れのシーン、上手では駕籠に乗って、下手では小舟に乗って、主人公男女が去っていく。駕籠かき、船頭の細やかな動き、人形と人形使いが揃って刻む独特のリズムが、悲しい場面に不思議な笑いを誘い起こし見事! 糸操りの人形芝居でしか味わえないハイブロウな醍醐味に酔わされた。12月の次の公演が今から楽しみだ!
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