Today's Terapika寺門孝之です。

Back Number 20040220

 

 昨日は神戸朝日ホールで『氷海の伝説』という映画を観、魂消ました。いや逆で魂が踊り出まくりました。

 イヌイットの伝説をイヌイットのスタッフ、キャストで撮り上げた映画で3時間くらいの大作なのですが、のっけからラストまでもう惹き込まれっぱなしで、これまでに観て来た数々の名作の記憶を消し溶かしてしまうほどの衝撃的な素晴らしさでした。

 昨年ずっと入浴中は「エスキモーの民話(NorthernTales」という本をちびちび読みつづけて北極圏に暮らす様様な種族に伝わる物語の世界が少しずつ少しずつココロに染みてきてはいたのですが、あくまでもコトバや物語としてのイメージに限られていました。それがこの映画によって一気にリアルなヴィジュアル体験になってしまいました。

 「伝説」を描いた映画なのに、ナレーションは一回も入りません。のっけからしばらくはまるでドキュメンタリーのようで、自分がイヌイットのある家族(一族)に突然放り込まれたような感じがし、一生懸命メンバーの顔を覚えてこの家族になじまなくちゃ、そんな気持ちでいると、突然(あとでこれが回想だとわかったのですが)ただならぬ濃厚な気配が訪れ、なにか曲曲しい事件が起こったことをほとんど説明もなしに体験し、そして見慣れた映画の文法を踏襲しないままに時間が飛び、一族の記録映像的な群像の中から極めて自然に数人の主要な登場人物が浮かび上がって見えて来出し、それぞれの感情が見事に僕のココロに食い込んできてたちまちドラマが発動してくる。

 あっ、話が見えてきたっ、ってわかってからのたたみかけてくる展開がスリリングでロマンチックで素晴らしく、もちろん氷の世界の風景も素晴らしい映像美だが、そこへよりかからずひとりひとりの人物像がひりひりとリアルで、だからこそふっと霊の出現や呪術など不思議なことが起こったときのリアルさも素晴らしく、ぞくぞくっとする。

 ほとんどが専門的な俳優ではない人が演じているということを後で知ったが、演じている、とは思えなかった。ついドキュメンタリーだと思えてしまう。

 けれどここに描かれている世界は千年近く以前のイヌイットの世界で、それを制作したり演じている彼等彼女等が今生活しているのは、携帯もインターネットもBS放送もセントラルヒーティングもTVゲームもファッションブランドもある僕達が生きているのと同じこの世界なのだ。それが信じられない。

 彼等彼女等は明確な意思のもとに、自らのルーツを遡り調べ上げて、様様な技術を長老たちから学び「ブツ」を再現し、古い言葉を勉強し、これだけ明確に「世界」を映像に成就し上げたのだ。彼等のココロ、魂にはよし!と思えばたぐりよせ、その中へ入り込み、自らがそれを体現できる「世界」が今もある、そのことがたまらなく素晴らしく思え、また果たして自分は自分の場所でなにをできるのだろう?と突き刺さってくる。

 登場人物が皆どこかで見慣れた風貌ばかりで、主人公はスガシカオに見えて仕方なく、ヒロインはヤワラちゃんとしか思えなくなり、その他にも旧友のお母さんや、仕事で知合った人や、細野さんのような人もいたし、知った顔だらけなのだった。

 出てくる人人の姿、容貌、表情や声の出し方、仕草や目の光り・・・それらをただ眺めているだけでなんだかココロがほくほくしてくる。遠く隔てられてはいるが、自分の血と霊(チ)を遡りに遡れば、それは自分の世界でもあるかもしれないのだ。

 DVDも発売されたばかりのようなので、興味を持たれた方はぜひご覧になってみてください。美しい。

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