Today's Terapika寺門孝之です。

Back Number 20021015

 

 2002年10月15日、火曜。晴れていたんだけれど、先程から激しく雷雨。今、アトリエのすぐ近くに、物凄い音響かせて落ちたようです雷。これも龍の愛戯でしょうか?

 先週末10月12日土曜、朝から快晴。

 この日、件のダムの底へ沈むという聖地を訪れました。その場所について教えてくれたMR.38と、彼の旧友=MR.fishheadsの運転するワゴン車に載って。

 ダムの工事はずんずん進んでいるようでしたが、幸い、水はまだ入れられていなくて、その場所はまだ、水を通さずに見る事ができました。闇の妹の切り株(勝手にそう呼ばせてもらいます)もまだそこにありました。その場所のボスらしい、大きなトビと大きなカラスが低く低く旋回して、時期外れの闖入者である僕たちを横目で監視していました。

 8月25日の鎮魂祭で、その場所のタマシイは静かに鎮められ、すでに新しい場所での活動に移っていたのでしょうか、あたりはぽかんとココロしずかで、ただ工事のショベルカーやブルドーザーの音が山山に木霊していました。

 僕たちは何度も何度も、そのうちに水に沈んでしまう川の流れを渡り、こちらの岸側から、あちらの岸側からその場所を眺めました。

 夕方になると、日が傾いたからでしょうか、川からもわんと、水晶質の湯気のようなものが立って見えて、山山は発光し出し、空には次から次から、龍形の雲が繰り出されてきました。

 そのあと、僕たちは、新しい場所へ鎮座ましました丹生川上神社上社へ。

 ぐんぐんと暗くなる空の下、穏やかな懐かしい灯りのともる社務所で、長屋和哉さんと会いました。夕刻7時から拝殿で長屋さんの奉納演奏があり、彼の想い付きと計らいによって、そのとき僕の描いた龍の絵を拝殿に置いて、音と絵と、一緒に奉納しよう、ということになっていたのでした。

 長屋さんの演奏は蝋燭1本が灯るだけの暗い拝殿で成されました。

 四角い、妙に濃い気配のする紅い絨毯の上に組まれた鉄パイプに吊られたさまざまな形、大きさの金属の鳴り物たち。絨毯の上にもさまざまな金物が並べられ、長屋さんは静かに、またあるときは激しく、息を吸ったり、停めたり、吐いたりしながら、蝋燭3本分の時間、音を鳴らし、響かせました。それらの音は、音の重なり、響きは、その時その場所その世界全体を振るわせ、そこにいた僕を震わせました。蝋燭の炎も震えるので、見まわすと拝殿の光景そのものがぐるぐるしていました。シルエットになってよく見えない僕のカンバスの中で 龍の絵もぐるぐるしているようでした。

 その響きの中にぢっとしながら、なんで、僕がここにいるのだろう? ここはどこだろう? と思いました。

 ここは、いつの、どこだろう。

 演奏が終わり、“なおらい”で宮司さんのお話を伺ったりしながらビールや柿の葉寿司などを頂戴し、その後、夜遅く、長屋さんの吉野での滞在地、音の録音スタジオでもある、そこからさらに奥深く山へ入っていった場所へ連れて行ってもらい、そこに集った初めて会う方たちと、焚き火の炎を囲んで、お酒を飲み交わし、朝日で山山の姿が溶明するまで話していました。

 見上げると、じゃらじゃらの星空で、見上げる度ごとに2〜3個の星が約束みたいに流れました。すぐ近く、そして遠くで、牡鹿の交し合う、宇宙の言葉のような呼び声が響き渡ります。

 翌朝、というか正午、さっきまで燃えていた焚き火のあとに残った木炭を拾って、長屋さんのポートレイトを描かせてもらいました。すぐ近くで猟銃がなにか獲物を撃つ、パン! パパン!という音が響き、猟犬の吠え声が木霊します。

 「龍」を追いかけているうちに、またひとつ、こんな旅をして、ステキな人達と出会い、また、今はアトリエで次の絵達の準備です。きっと僕の絵の中の闇はより深く、濃くなり、燃える炎は鋭く熱くなり、龍や闇の妹の存在感、気配はいや増しに増すでしょう。

 長屋さん、そして今回であうこととなった皆さん、ありがとう! またどこかで。

 寺門孝之

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