2001年9月10日、月曜。
午前中激しかった風も雨も午後には収まって、夕刻、アトリエの窓の向こうに雲々が描く壮麗な光景。アトリエ上空を巨大な龍がとぐろをほどきながら回転。港の方向に横這いするその銀色の背から、太く短い虹がその上の薔薇色の雲に突き刺さって、その虹が突き刺さった雲はオパールの巨大な卵を孕んでいるかのように内側から発光。視界の窓の矩形の中で、金色、珊瑚色の雲のマッスがその裂け目から覗く青空とせめぎあって、見事な構図。
ああこれだから「宇宙」にはかなわないや。あはは眼福。そうしてそれも一瞬の光景、まもなくすべては群青に溶け去りましたとさ。
今日は、また一冊、装画を担当させてもらった文庫本の紹介。今度は光文社文庫『スペインの雨』佐藤正午著、です。
よく質問を受けることですが、装画を担当するケースにはいくつかのルートがあって、@著者からのご指名、A編集者からの依頼、B装丁デザイナーからの依頼。
@Aはたいてい事前に本の内容を読ませてもらっての描き下ろしが多いですが、Bの場合は既にある絵を使うことも多いです。ちなみに今回はBのケースです。内容は未だ読んでいないのでわかりませんが、表紙はイイ感じ。1996年の作品で「赤い脚」っていうお気に入りの絵を使っていただきました。ちなみに町田康さんの場合は@。こないだの中山可穂さんの本はA。
内容に共鳴しつつ新しい絵を描き降ろす、っていうのがまあいちばん画家としての醍醐味があって、スリリングで嬉しいですが、既にある絵をデザイナーさんがピックアップしてくれる場合はさすがにデザインの完成度は高くなることが多いみたい。不確定要素が少ないから。
いずれにせよ、本の表紙に絵が使ってもらえると、単純に、僕は嬉しいのですが。ではまた。
from 寺門孝之
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