Today's Terapika寺門孝之です。

Back Number 20001005

 

 2000年10月5日、木曜、晴れ。

 秋の訪れとともに、三枝さん大復活で、嬉しい限りです。どんどんここで発言してください!

 その一方、僕の方はこのところtoday'sさぼり気味ですみません。自宅とアトリエは徒歩で12分くらい、空がよく見えて、その下に山の緑も見え、いのしし、たぬき、きつねなども往来するなかなか良い通勤路で、僕は毎朝・毎夕その道すがら、色々なことを思いつき、今日のtoday'sでこれを書こ、と決めたりしているのですが、このところ、どんどん思い付き過ぎて、そしてすぐにそれを追い越してしまうみたいになって、書き付ける間もなく、次のことを思っていて、なんだか結果としてさぼってしまうのです。困ったもんです。

 DEEPSEA展についてもあれこれ書こうと思っているうちに、はるか過去に。でも、けふは、がんばって書こ。てらこや会員募集中でもあるし。題して

ノイズレスorブラックボックス

 なんども言うようですが、先週、DEEPSEAこと深海重信君の絵画展に通いました。(なにぶん僕のアトリエから2分のギャラリで開催)。で、僕は感心すると同時に、色々考えさせられました。

 深海君自身が何度も言っているとおり、彼は「絵」を描き始めてからまだ2年半、“てらぴかのてらこや”にひょんなことで参加するまでは絵を描くことはもちろんしてないし、彼自身の言葉を借りるなら「絵を憎みさえ」していたということです。

 それが、昨年、絵を描き始めてから1年強で個展をし、今回はその第2回。彼としては毎年続けて行くつもり、とのことです。で、展覧会の成果としては、僕は去年に比べて、またまたアップしていて、充分観る価値のあるものになっていたと思いました。

 全展示作品の約半分がデッサン、残り半分が水彩なのですが、いまどき、展覧会で堂々とデッサンが並んでる、というだけでも特出したことだと思います。で、これまた彼自身の言葉を借りるなら、「ことデッサンに関しては、てらこやで教わったこと以外、何一つしていませんよ、僕は!」ということです。

 また、僕から観ると、彼がそういうデッサンの方がまだ彼の個性が出ているように見え、水彩も確かに、僕が言ったとおりのことをやって、画面を成立させているな、と思いました。つまり、深海君はてらこやで僕が教えたことをいち早く呑み込んで、それを全く純粋に受け止めて、まさにノイズレスに、画面上に吐き出している、らしいのです。

 はじめは、彼はそう言ってるけれども、そうは言っても、僕が言ってることを実現する際に彼自身のノイズが付加されて、それでこれらの「絵」が実現してるんだ、と思いました。でも、何回も彼の作品群の前に立って眺めているうちに、いや待てよ、もしかすると彼が言ってるのは、ほんとうにホントかもしれないぞ、と思われてきて、背筋に寒いものが走ったのです。

 もしかすると、てらこやで僕が言ってることを、ノイズレスに実現するとこれらの絵になるのかもしれない…、でもこれらの絵と僕の絵には誤差がある。て、いうことは、もしかするともしかすると、僕は、僕が教えてることをノイズレスには実現していないのかも!!!!!

 そもそも、てらこやはどのように始まったのか?

 ことの起こりは1996年に遡ります。ある一時期、展覧会に来てくださったお客さんから「弟子入りしたい」「絵を教えて欲しい」という要望が集中したことがありました。僕はそのひとりひとりに対応することはムリだと思ったし、「絵」は教えられないもんだと硬く思っていたので、全てお断りしていました。

 それが偶然が重なって、いくつかの専門学校やワークショップからお声がかかり、「絵」の指導をたくさんの人を前にする機会が重なったのです。そうしているうちに、「絵」のことは教えることはできなくても、「絵」を描くうえでの基礎になる柔軟体操のようなことは伝授できるのかも、という気になってきました。

 で、実験として以前から「弟子入り」などと言われてた人を中心に知人数人に声をかけ、ゴールデンウィークに自宅(当時はアトリエと自宅が一緒だった)を解放して、希望者に集まってもらい、自分が教えられると思うことを伝えてみたのでした。

 このときの感触がとても新鮮で、集まってくれた10人ほどの方々もはじめは緊張した面持ちだったのが、最終日にはなんだかすっかり打ち解けて、終了後にはまるで放課後のような時間が自宅なのにも関わらず漂っていたのです。

 で、味をしめたものの、やはり自宅を解放するのは大変で、(開講中、妻子は散歩に出てあたりを漂流して家を開けてくれていた)なかなか次の機会を作れずに月日が経っていったのでした。

 それが、1998年、突然、いつも展覧会をさせていただいてるJ&Fのオーナーから、「寺門さん、絵、教えたりされへんのん? よかったらうち使ってお絵描き教室とかしたらどうやろ思て」と、びっくりするようなオーダーを頂戴したのです。これは渡りにフネ、とさっそくに募集をかけ、誕生したのが現在に至る“てらぴかのてらこや”の始まりなのでした。

 とはいっても、それをスタートさせるに当たって、僕にはカッコたる教育方針も、プログラムも皆無でした。ただ、先の自宅てらこやで、思いの外、デッサン、はそれをする人に刺激を与えるものだな、と目を付けていましたので、新てらこやでは、まず“デッサン”を重視することにしました。

 僕の予想をはるかに上回る総勢30人くらいの生徒が集まり、いよいよ“てらこや”は未知の航海に出発したわけですが、おもしろいことに、具体的に、そのメンバーの前に立つと、彼らに何を伝えるべきなのか、瞬間瞬間、僕はひらめきどおしでした。それはまるでテレパシーのようで、あ、今、この子にこう言うべきだ、とかどんどん判るのです。

 いま、思い返せば、まったく無責任なことですが、“てらこや”はそのように始まりました。そうして、最初に集まったメンバーがよっぽど優秀だったのでしょう、4ヶ月間、毎週火曜夜に彼らと過ごすうちに、“てらこや”のプログラムは自然に出来上がっていったのです。そうして、毎週毎週、どんどん目に見えて上達していく彼等・彼女等の「絵」を見ることが出きるのは、僕自身の快楽でもありました。

 で、その後、次々と新会員を巻き込みながら“てらこや”は今も成長しつつある、っていうわけなのです。

 深海君はその最初のメンバーの一人でした。なにも指導せずに描いた最初のデッサン、僕が何かを告げて描かれた2枚目のデッサン、そのたった数分の差で現れたデッサンの間に、なにか決定的なことが彼に、起こってしまったのだと思うし、彼自身そう言っています。

 で、話は戻るのですが、ではいったいなぜ、僕は僕がみんなに教えてるとおりに描けないのか?

 そもそも僕は「絵」は絶対に教えることは出来ないし、教わることも出来ない、各人が勝手に、その場所で立ち上げていくものだ、と思っていました。それは今も変わりません。

 が、何回か、絵のプロぢゃない人達に絵を指導する中で、みんなが、いかに先入観にとらわれ、あるいは既成の価値観にとらわれ、また学校教育の中で自信をもぎとられてきたか、ということをひしひしと感じました。「絵」を教えることはできなくとも、その後天的な先入観を取り去る手伝いならば出来るかもしれない、というのが“てらこや”のきっかけです。

 「絵」は観る楽しみももちろんありますが、「描く」愉しみはそれを凌駕するし、描ければ、観方も変わってきます。僕の「絵」をわかってもらうためにも、描けた方がいいに決まってる。でも「絵」はさっき言ったとおり各人が自由に描けばよいもの…という先入観を打破するためには、「自由」なんて言ってはいられない。「僕はこう思う」「ここではこの描き方で描く」と、開き直って、ローカル・ルールを設定することにしたのです。

 それは、僕の経験から見た「絵」の最大公約数。そこに立ち戻って各人が「絵を描く」生活に入れさえすれば、後は各人が各人のノイズとともに育っていけばいい、そういう発想です。

 で、それまで「絵」を描いたことのなかった、「絵」が大嫌いだった深海君は、そのノイズレスの世界を、そのままに実現してくれたのかもしれません。彼の今回の作品群を観ると、僕は、“てらこや”のみんなに、何を言い、何を伝えたか、はっきりと理解することが出来ました。それは決して間違ってはいない…。

 でも、僕は、僕自身でさえ窺い知れない得体の知れないブラック・ボックスを抱えており、僕の「絵」はそこを通して発現してくる。なので、僕の言う最大公約数から零れ、洩れ、なにか違ったものとして出てくる。おそらく、画家タチ、はみなそうした個々のブラック・ボックス付きの存在だ。それはきっと、深海君自身にも付いている。意識するしないに関わらず。

 願わくば、これから、その得体の知れないモノと向き合って、“てらこや”で学習した技術を元手に、DEEPSEA標(ジルシ)の「絵」をどんどん実現する方向に向かっていって欲しいと、ココロより応援・声援する次第です、感謝とともに。「絵」、はそこからがスタートなのです。

 これをお読みの近隣の皆さん、とりあえず“てらこや”で「絵」を描き始めませんか? 愉し過ぎ、ですよ!

 ぢゃあ。

 from terapika

 

「天使からのおくりもの」

凰宮天恵/著  寺門孝之/絵

大和書房 本体1100円+税

 

僕が看板・壁画など描いた店が
12月3日オープンしました。

Cafe Hahn Hof(カフェ ハーンホフ)

神戸市中央区明石町32
tel :078−321−0415
(元町・大丸の南、フェラガモとか入ってる明海ビルの地下1階)

 

Days of Angels
天使のカレンダー

絵*寺門孝之 / 文*三枝克之

リトル・モア  ¥1500+税

全国書店にて絶賛発売中!

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