Today's Terapika寺門孝之です。

Back Number 20000909

 

 2000年9月9日、ぞろ目の晴れ。差す日が激しくていまさらながら日焼けしそう。

 ひさしぶりに三枝庵、新しいお話で開きました。すっかりごぶさたの間にこつこつ御本作ってたわけね。お疲れ様です。三枝さんの夏を吸い取った新刊楽しみ。

 今日の秘伝開示、は前回の「サイズ」のつづきで、

「でかい」と「ふとい」

 さて前回、「絵」にはその固有の「サイズ」があってはじめて成立する、って話を書きましたが、それと同時にまた、その「絵」を見た印象として実際のサイズよりも大きく見える、とか小さく見える、といったことが絵には起こるものです。これを「サイズ」とは区別して「スケール」と言います。よく画集など図版でしか見たことのなかった絵を展覧会場で初めてホンモノとご対面した際に、あれ?こんなに小さかったんだ、とびっくりすることがあります。ルーブルのモナリザもかなり小さいですし、僕にとってはジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」が思いの外小さくてびっくりでした。

 これは「サイズ」の話と矛盾するようですが、絵のサイズに対して、絵の内容・描き方が実際のサイズと関係なく、「大きさ」を感じさせる、ということです。モティフとその扱い方、絵の具の状態、など、僕がこれまでに見てきた絵やモティフに対する経験の蓄積を裏切る絵があるっていうことです。北斎の浮世絵なども僕が思ってたサイズの半分くらいしかないんですね。とても小さな画面の中に、とても大胆な運動性が織り込まれていて、大きく感じる。こういう絵をサイズとはまた別に「スケールのでかい」絵、僕は省略して「でかい」絵と呼んでいます。北斎も若冲も「でかい」。

 でも「でかさ」ということでは、マティスがとにかくでかいです。マティスにあっては、おそらく「でかさ」を意識的に追究してたとしか思えません。図版でこれは100号くらいの大作に違いないと思ってた絵が、20号ほどしかなかった時は倒れそうになりました。

 彼は意識的に絵の具をありえないほど薄く、かつ少なく塗って、カンバス地を露出させ、カンバスの地と薄い絵の具の膜とをハレーションによって発光させ、画面全体を膨張させる必殺秘儀秘技を使うので、「絵」はその限定されたサイズには収まりきれないほど、ぱんぱんに膨らんでいるのです。それは色だけでなく、フォルム、もっと言うなら「線」の動きによってさらに強調され、ますますぱんぱん、「でかい」「でかすぎる」。

 その上、本当にサイズそのものもでかいこともあるから油断なりません。有名なモロッコの兵士とかのシリーズ、まあそこそこでかいとは思ってましたが、「バーンズコレクション」展に来てたホンモノはでかすぎて、笑いました、あはは。それはもう「大魔人」くらいでかかったのです。きっと、絵の内容にふさわしいサイズを与えてみたのでしょう。

 それに比べるとピカソの絵はかなり「ちっこい」です。あこがれの「アヴィニヨンの娘たち」に初めてニューヨークで対面した時、けっこう大きいサイズだったので逆にびっくりしました。ピカソの絵はサイズのわりには印象はちっこいです。たぶんマティスとは正反対の力学が働いてるんだろうな。

 で、僕は「でかい」絵の方が好きです。発光する絵はそれだけ「でかい」。歌舞伎では役者を誉めるコトバとして、「でかい」を使います。あいつの芸は「でかい」、「でかい役者だねぇ」と。これはもちろんその役者のサイズ、身長・体重ではなく、舞台での映え方を表して言うのです。サイズがでかくても、あの役者は体躯には恵まれてるが、どうも「小っせえ」、なんて言われてしまうこともあります。これは「絵」の評価とまったくおんなじです。

 僕はといえば、まだこの「でかさ」については自信がありません。マティスのようにほんとにサイズのでっかい絵もしこたま描いてみないことには、サイズ感とスケール感の関係を掴むことはできないでしょう。最近、大きなサイズの絵をさぼってたので、ちょっとこれから意識してサイズの「でかい」絵に挑戦してこうと思っています。それがほんとに「でっけえ」絵になってくれたら言うことないんですが…。

 それとは別に、僕が「絵」を評するときにすぐ使うコトバに、「太い」、というのがあります。人物に対しても使います。これは何も肥満してる、ということぢゃなくって、ううむどう言えばいいのかな、「内容が豊か」と言ってしまえば身も蓋もないのですが、ま、そんな感じ。いい意味での「贅沢」さ。「絵」でいうなら、表面に見えてることだけでなく、何重にも魅力が重なっていて、滋養のようなものが出てる、って感じでしょうか。

 「絵」にとって贅肉ゼロの状態が「記号」と呼ばれるもので、仮にも「絵」を目指すならそこに肉汁たっぷりの肉で肥やしていかなくてはならないのです。というわけで、僕は当面、「でかくて」「ふとい」絵を目指していきます。僕ばかりが「ふとく」ならないように気をつけながら。

 し〜ゆ〜。

 from terapika

 
 
 

「天使からのおくりもの」

凰宮天恵/著  寺門孝之/絵

大和書房 本体1100円+税

 

僕が看板・壁画など描いた店が
12月3日オープンしました。

Cafe Hahn Hof(カフェ ハーンホフ)

神戸市中央区明石町32
tel :078−321−0415
(元町・大丸の南、フェラガモとか入ってる明海ビルの地下1階)

 

Days of Angels
天使のカレンダー

絵*寺門孝之 / 文*三枝克之

リトル・モア  ¥1500+税

全国書店にて絶賛発売中!

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