Today's Terapika寺門孝之です。

Back Number 20000831

 

 2000年8月31日、木曜。

 水太った厚い雲がついに決壊してどちゃ〜と雨降りました。雷鳴もあり。久し振りで気持ち良い。でもまだ空中水分はたっぷりと、蒸し暑。

 秘伝開示。3日目。

「事件」

 一昨日ここに書いたとおり、僕の「絵」は「2色」の関係を文字通り縦横無尽に駆使し描いてるわけですが、もちろんそれだけで「絵」が成り立っているわけではありません。僕の「絵」にとってのもう一つ大事な要素、それを僕は「事件」と呼んでいます。

 「絵」を見る・観る時、僕達はどんなふうに見て・観ているのでしょう? 大雑把に言うと、「視線を動かしながら」見て・観ているのではないでしょうか。そんなんアタリマエや!という声も聞こえますが、僕は、「視線を動かす」ということが「絵」の秘密の一大要素だと思うのです。

 僕は初めて見る絵の前に立ち、絵に視線を送ります。初めはただ漠然と、あるいは僕の場合職業的なこともあってやや検分するような、さてどんのくらいの絵なんぢゃろ、といぢわるな視線かもしれません。面白みに欠ける絵の場合、その最初の一瞥だけでその絵から視線をはずすかもしれません。

 が、視線がなかなかはずせない絵、というのがあります。それはもうココロのコトとは違うのです。ココロまで行かない前の初めの数瞬のことですが、文字通り「目が離せなくなる」。僕の場合そんな時も、視線はただ1点を見詰めているということはなくって、むしろ、視線が画面のあちこち隅から隅まで飛び交って、それで目が離せないでいるのです。

 視線は何を追っているのか。描かれた美女の滑らかなはずの肌にある意外なほどでこぼこしたタッチ、色と色の意外な滲み方、理屈では納得できない意外な場所に置かれた色、鋭く引っかかれたような傷跡、ねっとりと輝く絵の具の塊、突然覗くカンバスの地肌、垂直に垂れたワニス、果てはひび割れた色面、貼りついた筆の毛まで、僕の視線はあっちからこっちへ、こっちからそっちへと、すばやく、細かく、鋭く、その絵の表面を移動していきます。

 何を求めて?それは「事件」を求めてなのです。

 絵に何が描かれているのか、これはモティフやテーマということですが、それはココロではなくアタマが判断することであって、また判断するもなにもたいていは一目瞭然。そうでない場合は考えたり、タイトル読んだりしながら、ああなるほどねって納得するわけで完璧アタマの領域。でも、「目が離せない」っていうのはアタマぢゃなく、ココロでさえもまだなくって、なんていうかなぁ、「本能」とか「運動神経」とか、あ、そうだ「触覚」の領域。「痛い!」とかって感じるのとおんなじ領域。

 つながるはずの線が途絶えている箇所、塗り斑、かすれ、傷…そうした絵の内容、それを「情報」と呼ぶなら「ノイズ」側のコトゴト、画面上のそうしたノイズ的出来事こそ、僕がその絵から目が離せなくなる要因であり、またその絵を好きになってしまう要因で、それを僕は「事件」と呼ぶのです。

 僕が小学生の頃、奈良の明日香村で高松塚古墳の壁画というやつが出てきて大ニュースになったことがあります。新聞に大きく載ったカラー写真で見たその「絵」に僕は深く魅せられてしまいました。何度も何度もその図版を見詰め、その「絵」に思いを馳せました。その思いは後に絵を真剣に描き始めた僕に甦り、模写作品を描いたりまでしました。

 が、その壁画が剥げてぼろぼろになっていなかったらこんなに僕は魅了されたでしょうか。僕は自信ありません。あれだけ鮮やかな色彩、ナイーブな線描が、ざっくりと深く傷つけられて石のワイルドな地肌がむき出しになっていたからこそ、その画像に惚れこんでしまったのではないか、と今思うのです。

 誤解しないで欲しいのは、だからといって僕はそういう時の刻印、わびさび、地味さが好きだというのでは決してありません。「絵」が一方向に向かうのではなく、画面の上に絵そのものと拮抗する「事件」が起こって、そこから「エロス」が噴出していることに魅せられちゃうんだと思うんです。エッチ!

 というわけで、僕の考えでは、1つの絵の上で起こってる「事件」が多ければ多いほど、その絵はエッチでいい!ということになります。

 「事件」から「事件」へ視線は蝶のようにひらひらと舞い、移動し、その視線の動きこそが、なにか、をココロに生む。それは「記憶」でしょうか、それとも…なんだろう? その視線の動きがココロに生むモノ、と、2色関係の交錯がココロに生むモノ、が知識や理屈すなわちアタマ側でない、剥き出しの「絵画体験」なのです。

 し〜ゆ〜。

 from terapika

 

「天使からのおくりもの」

凰宮天恵/著  寺門孝之/絵

大和書房 本体1100円+税

 

僕が看板・壁画など描いた店が
12月3日オープンしました。

Cafe Hahn Hof(カフェ ハーンホフ)

神戸市中央区明石町32
tel :078−321−0415
(元町・大丸の南、フェラガモとか入ってる明海ビルの地下1階)

 

Days of Angels
天使のカレンダー

絵*寺門孝之 / 文*三枝克之

リトル・モア  ¥1500+税

全国書店にて絶賛発売中!

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