僕とイルカ
僕の絵にイルカが現れ始めたのは、1993年の初夏のこと。天使が現れてから1〜2ヶ月遅れてのことでした。直接のきっかけははっきりしていて、ヘンリー川原さんという音響アーティストがつくった「en-dolphin」というCDを買ってきてアトリエでかけていたことだと思います。このCDはイルカの声を編集した環境音楽のような作品なのですが、そのイルカの声がとってもよくって聴いているとどんどん不思議な浮遊感が感じられ、透明な気分になってくるのです。で、それを聴きながら白紙に絵の具を滴らせてる最中に、ふっと、イルカが僕の周りを廻っているような気分になり、今ならイルカを描ける!、と思い、そのまま何も見ずにイルカを描いたのです。それは、空中からぴょんとイルカが絵の中に飛び込んできたような感じでした。
で、それ以来、イルカは天使に次いで僕の絵の重要なモティフになったのです。イルカの絵を描き始めると、不思議なことに次から次へとイルカに関わる人達が僕の前に現れました。彼等彼女等は野生のイルカと泳ぐ活動をしているような人達でした。みんな僕にぜひイルカと泳ぎなさいと薦めてくれたのですが、僕は、絵にイルカが現れるばかりで実際にはイルカと泳いだことはありません。それでもときどき、どういうわけか、本当にイルカのヴィジョンが強くなって、むしょうに絵にイルカを出したくなることがあって、そういう時のイルカの絵の光景は、実際に体験したわけではないのに、僕にとって強烈に生々しく、絵を描いてる間は、海に飛び込んで水飛沫を跳ね上げて遊んでるようなハイな気分なのです。
ここしばらく、そんなイルカの気配、海の気配も遠ざかり、イルカの新作も余り描かれずにいたのですが、今回のCEBUの旅で、野生のイルカの大群の海を体験して、また、あの、イルカが絵に飛び込んでくる感じが戻ってきました。より、明瞭、より、精妙になって。で、旅から戻ると、ずっと他人に貸してあってすっかり忘れてしまってさえいた「en-dolphin」のCDが、送り返されて来ていて、久し振りにアトリエにはイルカ達の声が響き渡っています。今度は油彩で、イルカ絵に挑戦中。
2000年3月17日、金曜、晴れ。from
terapika