状態2000年2月17日、木曜、晴れ。
いま、アトリエの床には、足の踏み場がないくらい白い、大小のカンバスが並んでいて、僕は毎日、何回も、何回も、その表面に白いジェッソ(下地塗り用の白い絵の具)を塗り込んでいます。腰痛以前から続けていて、今週再開、ようやく滑らかなイイ感じの状態になってきました。
前にも何度か書いたことかもしれませんが、僕はこの下地塗りが大好きです。多分、その後、色の絵の具で実際に絵を描くのにかけるより何倍も時間をかけてこの下地を作るのです。
さて、この作業をしている間、僕が行っていることは、カンバスの「状態」を良くすること。カンバスと湯とジェッソによって僕が「これでよし」と感じる「状態」にまで仕上ていくのです。カンバスの布目がジェッソの粒子で埋まって、滑らかで、貝殻の裏のような光沢が生じてくると「いい状態」。
考えてみると、僕が絵を描いている間、いちばん気にしていること、重要と思ってるのは、画面の「状態」にほかありません。そう、絵を描くのに、プロセスがあるのではなく、瞬間瞬間の画面の「状態」の連続なわけで、その「状態」を未来に向けて、少しずつでも「良くしていく」こと。これが僕が画面に対して行いつづける作業の全てです。もちろん、何を描くのかとか、構図はどうだとか、どの色を使うのかとか、考えるわけですが、たいていはそんなことは長く考えなくてもわかるし、白い画面のどこかから描き始めてしまえば、あとはその「状態」を育てていくより仕方ありません。
と、考えると、下地塗りは決して絵を描くための準備などではなく、既に、絵は始まっているに違いないのです。いい「状態」のジェッソ面ができれば、その表面の「地形」に即して絵の具は流れ、滲み、絵の具の一筆目から絵を作ってくれるのです。下地を塗る前さえ、僕はカンバスを布でこすったり、ホコリをはらったり「状態」を向上させるし、下地を塗ってる長い期間には、ホコリや筆の毛などが付着するのですが、それらの異物を取捨選択するのです。つまり、残した方がいいかもしれない異物は残すわけ。そして乾くと、気に入らない突起はサンドペーパーで削り落とす。
そんなことを嬉々としてやってるうちに、毎日があっという間に過ぎ去って、愕然とするのですが、止められません。
では、また明日に。
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