盆
8月15日
青空にぱっくりと透明な裂け目が開いて
霊達が おっかなびっくり
この世へ 透きとおる片足を一歩 入れてみる
右翼団体のけたたましい君が代も
今朝ばかりは百合の花々に舞い囲まれて
清らかに 遠く 響く 音量が
空気の濃さにさえぎられて
何か小さくきこえるんだなぁ
耳奥にプールの水が溜まって
全て遠くにきこえるんだよなぁ
やっぱり敗けたんだな
50年余のタイムトンネルのまぼろしも 今は薄く
僕にでさえ身にしみる敗戦記念日
それがちょうど盆の中日なんて
国民は心底 霊を信じているんだろうな
信じてることも忘れてるんだろうなぁ
街は人があふれているのに
そのざわめきは 空にぱっくり裂けた透明な裂け目にすいこまれて
何かどんよりとしづかで
いつもとおんなじようでいて どこかちがう
停止したエスカレーターのステップにふみ入れるがごとし
この代に霊があふれ出してるんだもんなぁ
閉ぢたラーメン屋の店先で
紙くづの吹きだまりが渦を巻いて
立ち上がろうか どうしようかと 散るに散れず
僕のうちでは炊かないし
この世に何軒送り火を炊く家があるのかな
毎年どんどんこの世に霊が濃くなって
空の裂け目も縫いつくろわれることもなく
ただ だらしなく 今年も盆を通り過ぎる
FROM 寺門孝之
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