Back Number 19990815

 


8月15日

青空にぱっくりと透明な裂け目が開いて

霊達が おっかなびっくり

この世へ 透きとおる片足を一歩 入れてみる

右翼団体のけたたましい君が代も

今朝ばかりは百合の花々に舞い囲まれて

清らかに 遠く 響く 音量が

空気の濃さにさえぎられて

何か小さくきこえるんだなぁ

耳奥にプールの水が溜まって

全て遠くにきこえるんだよなぁ

やっぱり敗けたんだな

50年余のタイムトンネルのまぼろしも 今は薄く

僕にでさえ身にしみる敗戦記念日

それがちょうど盆の中日なんて

国民は心底 霊を信じているんだろうな

信じてることも忘れてるんだろうなぁ

街は人があふれているのに

そのざわめきは 空にぱっくり裂けた透明な裂け目にすいこまれて

何かどんよりとしづかで

いつもとおんなじようでいて どこかちがう

停止したエスカレーターのステップにふみ入れるがごとし

この代に霊があふれ出してるんだもんなぁ

閉ぢたラーメン屋の店先で

紙くづの吹きだまりが渦を巻いて

立ち上がろうか どうしようかと 散るに散れず

僕のうちでは炊かないし

この世に何軒送り火を炊く家があるのかな

毎年どんどんこの世に霊が濃くなって

空の裂け目も縫いつくろわれることもなく

ただ だらしなく 今年も盆を通り過ぎる


FROM 寺門孝之