パーティをようやく抜け出し一人で四谷三丁目駅へ向かう途中、道に迷う。迷路のような路地を抜けてがらんとした夜のアーケード街に出ると、流浪の一群が大きな舞台を引きながら僕の前を進んで行く。舞台の上には小さな赤い犬。僕を見ながら舌を出している。
気配がして振り向くと、畳1畳くらいのおおきなついたてを立ててその陰からこちらを窺うように白い顔を出して、異様に髪の長い女がかがんでいる。その女が呪文のような台詞を僕に向かって吐きつける。何度も何度も。一座の女優らしい。
僕が歩くと、女はついたてを運びながらついてくる。振り返ると、さっとついたてを立て、その陰から女は台詞を吐く。やれやれ、前を行く舞台を運ぶ者達と、ついたての女に完全に挟み込まれて、僕はどこまでも一緒に行かなければならないのかもしれない。
(1988年6月10日、東京・代官山)
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