山荘のような所に僕は来ている。とても広々していて、空気も清い。
夜、僕は一人で広い読書室のような部屋へ降りて行って、ソファにだらぁっと斜めにもたれながらコーヒーを飲んでいた。傍らには円形のサイドテーブル。壁は本棚になっていてたくさんの古そうな本が並んでいるが、僕は本は読まず、ただだらぁっとしてゆっくりコーヒーを飲んでいるだけだった。
コーヒーの湯気のむこうにふと気付くと、かっこいい女性がちょうど向かいのソファに腰掛けて、ぢっと僕を見ている。三十六才。彼女が三十六才だと判る。彼女の声が僕に響く。
「何かすねているの?」
「いや、とんでもない、すねてなどいない」
「少し話す?」
「そうですね」
僕は彼女を連れて僕の寝室へ上がっていく。寝室のドアを開けると、僕のベッドに男が寝ていた。それは僕だろうか誰だろうか? わからなくて少し慌てた僕は部屋へ入るのを止めて再び、三十六才の彼女を連れて読書室へ降りて行く。
(1993年12月30日、神戸・北野)
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