おそらく僕は中学生だ。体育の授業で水泳をやる。とても古い木造の体育館の奥に25mプールがある。
息つぎのコツを覚えたらしく、飛び込んでもまったく水の中という感じはなく、物凄いスピードで25mをあっという間に泳ぎ切り、ターンして25m水が身体に触れないほどの勢いで戻ってきて、水中でアハハハハハハハハハハハハハハハハハ…………………………と大笑いしている僕。
午後の授業は自習で、水泳の後のけだるいムード。図工かなにかの時間で生徒はまばら。
僕が教室に入ると、みんながこっちを向く。僕は記憶を失っていて、プールで笑ってから今までのことを何も憶えていないことに気付く。友達は僕が余りにコウフンし過ぎて気が変になったんだと教えてくれる。
よく僕のことをわかってくれる女生徒がひとり黙々と作業(図工の)をつづけている。彼女の穏やかなやさしい気持ちが「大丈夫、安心して」とテレパシーで伝わってくる。
(1988年6月16日、東京・代官山)
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