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m y d r e a m s
 

『母の秘密』
 

 真夜中の食卓でひとり、母がしくしく泣いている。僕は襖の陰から覗き見している。異様な気配が立ちこめ、重力が増大している。

 ぎぎぎぃ、と扉が開いて、大きな老婆が入ってくる。容貌、服装ともに絵本に出てくる魔法使いの老婆そのものだ。本当にいたのか、と僕は目を見張る。

 老婆はゆっくりゆっくり、気付かないような速度でじいっと進んで、母の背後に着く。老婆は大きく、泣いている母は小娘のように小さく、か弱い。老婆は母の秘密を知っている。母は母の秘密を老婆が知っていることを知っていて、それで泣いている。

 老婆は実は優しく、毅然としているが母を許しているようだ。母の耳元で何か囁きさとしている。母はうんうんと、こくりこくりと小さくうなづいている。

 テレビが点いていた。画面に、じいっと、大きな木の切り株が映っている。大きな木の切り株が映りつづけている。ふうっと、その切り株から白い大きな花が次々と咲き、それぞれの花の中心に小さな嬰児が勾玉のようにうづくまっている。

(1982年某月某日、神戸・滝の茶屋)