そこは私が子供のころを過ごした家の玄関です。窓からまぶしい陽が差していて、かごには懐かしい白い文鳥のぴーちゃんの元気なすがたがあります。私は両手にシクラメンの鉢を抱えていますが、なぜか球根がむき出しで枯れたように見えます。
「ぴーちゃん」私が呼びかけると、ピーちゃんは、柔らかい女性の声ではなします。「花が咲くよ」
「ここはいい場所だね」 「うん。いい場所だよ」
陽が差仕込む窓辺に鉢を置こうとしたそのときです。シクラメンから芽が出てきて…。それは、TVで見る一週間の植物の成長を一分で見る、あの映像で、ゆらゆらと茎が伸び、手のひらを広げるようにみずみずしい緑の葉が開き、花芽もくねくねとのびてきて、スローモーションのようにピンクの花びらを次から次へと咲かせていきます。
私はその見事に茂ったシクラメンの鉢を窓辺の光の中に置きました。
しばらく眺めていると、また一つの花芽がのびてきて、今度は一輪だけ、セルリアンブルーの花が咲きました。その花だけ、なぜか花びらが蝶々の形をしていました…。今思うと蝶々だったのかもしれません。
(2003年7月10日)
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