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y o u r d r e a m s
 

『海辺のカレー屋さんとBloody−Kick』

BY

deepseaさん


 
 場所は海辺、砂浜にあるカレー屋さん。そのカレー屋さんは砂浜の上にやぐらのようにして建っていて、一階部分は柱だけで、二階部分からが店舗になっている二階建てのログハウス風の造りだった。屋根は椰子の木の葉が幾重にも重ねられて出来ており、屋根の上には結構広い屋上のようなベランダが付いていた。

 ボクは、ボクの知らない誰かと、そのカレー屋さんに梯子を使って入っていった。そのボクの知らない誰かは、ボクの上司(目上の人)で、ボクをそのカレー屋さんに連れてきてくれたのだった。

 中に入ると、松本君とその他スタッフ6〜7人がいた。どうやらそのカレー屋さんは、松本君が経営しているようだった。松本君は何か悩みがあるようだった。

 松本君はボク達をさらに上の階に案内した。梯子を使って上がっていくと、外からも見えた屋根の上についているベランダに出た。

 そこで初めて気づいたのだが、驚いたことに、周りの砂浜や海や空などは、すべて精巧に作られたセットであり、そこは大きなスタジオの中だったのである。セットの周りでは、何人かの美術担当の人が長い竹の棒の先につるした作り物のカモメを操ったり、大きな扇風機で椰子の葉を揺らしたりしていた。

 そのセットは実に良く出来ており、セットとスタジオの境目が全く判別できないほどだった。空はどこまでも高く、深い青色をしており、太陽も全くの本物に見えた。

 松本君はベランダの手すりに腰掛けて、自分の悩みを話し始めた。

「ボクは今は、数人の優秀なスタッフたちと一緒にテレビの番組を作っています。スタッフが話の筋を考えたり、こういうセットを作ったりするんです。もちろん、それを指示しているのはボスであるボクです。そして、話の筋やセットなんかが出来あがると、今度はスタッフたちが、どこをどういう風に撮影すれば良いのか、僕に指示を出すんです。そして、最後にボクがそれをテレビカメラで撮影することになっています。言ってみれば、僕とスタッフ達の連携作業なんです。でも、ボクにはそれがとても機械的な作業に思えて、すごく苦痛なんです。」

松本君は、落胆した様子でそう話した。ボクの上司は大きくうなずき、

「なるほど、良く分かるよ。」

と言った。

 しかし、僕には何の事だかさっぱり話の内容が理解できなかった。なぜなら、松本君は優秀なスタッフたちに囲まれて良い番組をたくさん作っていて、僕からすれば、恵まれた環境の中で番組製作に打ち込んでいるように思えたし、それに、松本君とスタッフたちはお互いを必要としていて、とても良い関係にあるように思えたからだ。

 僕達3人はうつむいて黙り込んでしまった。僕は一生懸命考えた。なぜ松本君が悩んでいるのかを。10分くらい考えてようやく少しづつ分かりかけてきた。ボクは松本君に、

「松本君が悩んでいるのは、松本君がテレビカメラを回す時には、どこをどういう風に撮影するのかが、あらかた決まってしまっていて、松本君がカメラワークを考える余地がほとんど無くて、自分の仕事にクリエイティビティが欠けているという風に感じているからですか?」

と尋ねた。松本君は、

「そうです。問題はクリエイティビティなんです。今のボクにはそれが全然足りないんです。」

と答えた。しかし、ボクはそれを解決する方法をすぐに思いついた。ボクは言った。

「こうしてみたらどうでしょう。仮に、(1)・(2)・(3)・(4)の撮影シーンが有ったとして、スタッフの人たちが、(1)・(2)・(3)・(4)のシーンを(1)・(2)・(3)・(4)の順番で撮影してくれ、と言ったとしましょう。そうしたら松本君は、頭の中では(1)・(2)・(3)・(4)の順番のつもりで撮影しながら、実際には(4)・(2)・(3)・(1)の順番で撮影するのです。(4)・(3)・(2)・(1)では(1)・(2)・(3)・(4)と同じだけど、(4)・(2)・(3)・(1)ならクリエイティビティは保たれるでしょう。」

松本君はそれを聞いて、

「そうだったのか! なぜ今までそんな簡単なことに気が付かずに悩んでいたんだろ。そういう方法があったのか!」

と言いながら、ベランダの上でおおはしゃぎした。ボクとボクの上司も、松本君の悩みが解決したので、とても幸せな気分になった。

 そのときボクは、自分が着ていた白いTシャツの右胸のところに、うっすらと血が付いているのに気が付いた。しかし、その時はそれが全然気にならなかった。

 僕達は屋根の上のベランダから下の階に降りて、松本君にカレーをご馳走になることになった。

 店内は既に多くのお客さんでにぎわっており、みんな思い思いのカレーを注文して、それをおいしそうに食べていた。ボクと上司は席につき、松本君にカレーを注文した。

「カレー二つ。」

と上司は松本君に言った。松本君は愛想良くお辞儀をして、カウンターのほうに行き、カウンターの中にいたスタッフにオーダーを告げた。カウンターの中のスタッフたちも、松本君の悩みが解決したので、松本君と一緒に喜んでいるようだった。お店の中全体が、松本君の悩みが解決したことを記念してパーティーをしているような、そんな雰囲気だった。

 しばらくするとカレーが運ばれてきた。ごく普通のカレーだった。2人はそのカレーを食べた。おいしいカレーだった。

 食べている途中で僕はそのカレーを自分が着ていた白いTシャツの上にこぼしてしまった。テーブルに備え付けてあったペーパーナプキンでTシャツを拭くと、Tシャツの上のカレーの色が見る見るうちに血の色に変わっていった。

 ボク達は驚いて松本君を呼び、Tシャツを見せた。すると松本君は神妙な表情で、

「実はこのカレーにはBloody−Kickが入っていて、とっても体には良いんですが、みんなには秘密にしてあるんです。」

と言った。そしてこっそりとBloody−Kickを見せてくれた。

 それは白いきのこだった。白と言うよりは半透明で、かすかに燐光を発していた。触ってみるとプルプルとしていて、とても柔らかかった。しかし、そんなに白いきのこがどうしてBloody−Kickと言う名前で、しかも服に付くと血の色になるのだろうという疑問は、不思議と沸いてこなかった。このきのこが何らかの弾みで血の色に変わるのは、とても当たり前のような気がしたからだ。

 しばらくすると僕はトイレに行きたくなって、トイレに行った。用を足していると、驚くべき人が入ってきた。それは、小学校のとき同じ学年にいた一卵性の双子の姉妹のうちの一人だった。僕は彼女のことを小学校を卒業してから一度も見たことが無く、そのときまで顔も名前も忘れてしまっていたので、彼女が入ってきて凄く驚いた。

 彼女は黒いタイトスカートを身に着け、黒いローファーをはいていた。しかも彼女は上半身が裸だった。彼女はすっかり大人の女性の体つきで、抜群のスタイルだった。そして、ボクの隣の便器の前で、彼女はスカートと下着をゆっくりと下ろした。僕はチラッと彼女の方を見てみた。なんと彼女には男性器が付いていた。

 次の瞬間、彼女はボクの方を見つめ、そしてゆっくりとした口調で、

「ゆっくり動くことが大切です。ゆっくりと動けば世界もゆっくりと変わります。心配はいりません。」

と言った。僕は何の事だかわからず、呆気にとられてしまった。

 彼女の体は彫刻のように完璧で、Bloody−Kickのように白く、半透明だった。その半透明の肌から薄っすらと血管が透けて見えて、とてもきれいだった。さっき松本君にBloody−Kickを見せてもらったとき、不思議と血のイメージに疑問が沸かなかったのは、Bloody−Kickの中にもうっすらと血管が透けて見えたからだったことに気が付いて、妙に納得した。

 そしてボクは、彼女のグレイがかった瞳に見つめられながら、ゆっくりと目を覚ました。それはまるで、彼女の言葉を守るような目の覚まし方だった。

(1999年9月10日早朝、自宅)